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2010年10月19日

2010年J2第30節 サガン鳥栖-横浜FC 「諦めてゴメンね」

「諦めてゴメンね。信じてなくてゴメンね。」鳥栖・豊田が横浜・阿部のプレッシャーを振り切り、4-4の同点のゴールを叩き込んだ時、私のすぐ後ろにいた女性2人組の鳥栖サポはそう呟いた。「サポーターが先に諦めたらダメだよね。」淡々とした言葉が余計に胸に突き刺さる。たった45分前の自分達に対する戒めに聞こえてしまった。前半横浜は鳥栖の鋭い出足に圧倒され、前半34分からたった8分間で3点を許しゲームはほぼ決まったと横浜サポーターだけでなく、鳥栖サポーターも考えていた事だろう。



このゲームは、三ツ沢で行われたゲームとは少し様相が異なった。メインスタンドでは複雑な空気が支配する。眼の前に岸野監督が来ても鳥栖サポーターからブーイングは殆どなく、昨年まで本当に鳥栖の監督だったのだろうかと思えてしまう位だった。プロの世界に移籍は付き物。しかし、一年で選手・スタッフを合わせると10人近くが同じチームに移籍するというのは異例な事。表面上は平穏だが、必ず倒してやるという強い意気込みは前回の4-0という敗戦もあってそれを感じる。昨年まで鳥栖にいた柳沢、高地らの表情もそれを感じてかややこわばり、普段はアウェーでも横浜サポの声援があると挨拶をすぐに返す彼らも、この日はやや伏し目がちにやや急ぎ足で控え室に下がっていこうとする。

過去の事を敏感に感じていたのは横浜だったのではないか。試合開始から積極的にプレッシャーに来るホームの鳥栖。豊田、藤田、衛藤、山瀬という若い選手が、横浜のパスサッカーを分断にかかる。狙い目はホベルト、八角。このパスの出所を潰して、鳥栖は高い位置でボールを奪って速攻を仕掛ける。それでも試合開始直後は、横浜もその攻撃に耐えて武岡、カイオを起点にして鳥栖のゴールに迫っていた。
そのゲームの流れが変わったのは前半12分。横浜のCK。蹴るのは柳沢。2本続けてやや低い弾道で鳥栖DFがクリアして、再びCKというところで柳沢は右ふくらはぎを押さえている。肉離れだろう。これにより根占が急遽交代で登場するが、武岡とのコンビネーションが悪く守備でも挟み込めない、攻撃も前にいけないで横浜はゲームが作れない。
その右サイドからの失点は前半34分。藤田のFKに合わせたのは今節復帰したDF木谷。この失点が横浜を混乱させる。守備が後手後手に回りだす。そして豊田を倒してPKを与えるとこれを決められて2-0。その2分後には、早川がキックフェイントをしたが藤田はそれに引っかからずにボールを奪取し、GK関との1対1を制して前半だけで3-0とする。



中3日の疲れという声もあるだろうが、それ以上に横浜は精神的に萎縮してしまっていた。元鳥栖組にすれば昨年までのホームという違和感、延長まで戦って敗れた激闘に続くセットプレーからの失点、横浜の選手全員が浮き足立ちコントロール出来なくなっていた。横浜は選手もサポも抜け殻の様に放心状態のままハーフタイムに入っていく。私たちこそ過去に生きていたのかも知れない。



それでも冒頭の女性サポの一人は言う「まだ終わってなか。うちらそんな強くなかよ。」サッカージャージを着ていたからきっとサッカーを知っている方だろう。まだ続ける「(鳥栖は)もっと前にいかな。今日こそ勝ちたいから。」調べていくと鳥栖のホームゲームでの最後の勝利は6月の栃木戦にまで遡る必要がある。勝利を望む気持ちも強い筈だ。

しかし、そんな彼女達の願いは後半鳥栖の選手達には届かない。あれだけ前半動きの良かった鳥栖イレブンの動きが緩い。前半での大量リードで元鳥栖組の鼻を明かしたとでも思ったのだろうか、目的はもう果したとばかりに前線からのプレスは消え失せ、中盤までマークこそ付いてくるが切り込ませてくれる。
鳥栖の選手もサポーターも人だった。あれだけ強い思いで、岸野監督を無視して思い出を振り切ったと思っていたが、後半自分達の頭の中で感傷的な雰囲気を作ってしまっていたのだろうか。
野崎と田中のマッチアップも複雑な思いの一翼を担うが、その勝負を野崎が制し始めると私たちは少しずつ「今」を認識し始める。「まだ終わってないよな」「1点取れば流れは変わるんじゃないか」そんな期待感と不安感がスタジアムを包み込む。



そして後半20分。横浜の猛反撃の口火を切ったのは、前鳥栖の渡邉だった。身体を投げ出しながら蹴り込んだシュートは鳥栖のゴールを揺らした。それでも喜びは最小限にすぐに攻撃に戻る。その2分後、GKと交錯しながらヘディングを早川が決める。これで3-2と残り1点差。余裕が少しずつ恐怖に変わって行く瞬間だ。

鳥栖も選手交代をして流れを食い止めにかかるがそれは叶わない。特に鳥栖には若い選手が多く、こうした弛んでしまったゲームを締める事は容易ではなかった。

そしてカイオが後半33分、同点のゴールを決める。こうなってくると鳥栖からは落胆の色が伝わってきて、流れがはっきりと横浜に傾く。鳥栖は磯崎に代えて長谷川を入れたが、私の目から見ていても意図は見えなかった。
この交代の直後、とうとう横浜は3点差を逆転する4点目のゴールをカイオが決める。残り4分。こうなると鳥栖のサポーターからは歯軋りではなく、諦めにも似たため息が聞こえてくる。多くの鳥栖のサポーターは汚い言葉を発しない。その裏返しに驚くほど静かなため息をつく。



この試合の4日前横浜は等々力で後半残り2分で同点となるゴールを許し、ゲームの流れを持っていかれた。それを考えるとあのゲームを知っている者は、この試合は締める事が出来る筈だ。しかし、運命というのは恐ろしい。後半45分、鳥栖から最後の攻撃とでもいうべきロングボールが放たれる。これに反応したのは豊田で、マッチアップしたのは阿部。阿部は身体を寄せて豊田の侵入を防ごうとするが、身体の使い方一つで振り切られて同点ゴールを許してしまう。

もう奇跡は起きなかった。4-4で笛が鳴った。川崎戦で唯一出場していなかった阿部が今度はロスタイムの洗礼を受けてしまうとは皮肉である。彼は試合後高地に肩を抱かれながら泣きじゃくった。自責の念だろう。確かに3点差を追いつき来年以降に期待が持てる内容ではあった。しかし、その見方だけで良いのだろうか。



鳥栖サポの女性はこのゲームをこう結んでいた。「でも、やっぱり勝たなければ意味がないんだよ」と。結果的に横浜、鳥栖どちらにも昇格争いの終戦を告げる勝ち点1となってしまった。プロセスを見れば来季に繋がる話かも知れないが、繋がったかどうかは結果論であり数字に出来る訳ではない。良いプロセス形成の為に試合をしているのではない。勝利する為に試合をしているのである。豊田の4点目自体は素晴らしいが、それで満足してはいけないとでも彼女は言いたげだった。横浜も3点差を逆転し流れを一気に引き寄せた後の落とし穴。これが3点差を逆転勝利した甲府と、同点に追いつかれる横浜との順位の差だろうか。
昇格戦線からはほぼ離脱。だからと言って手を抜いて戦うことは許さない。成長を、勝利を、昇格を諦めるな。謝罪はシーズンが終わってから。「選手の皆さん、昇格を信じてなくてすみません」と謝るから。
posted by おかき at 03:31| Comment(0) | TrackBack(2) | 横浜FC2010観戦記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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