ある男が登場した瞬間は、不思議な空気がスタジアムに流れた。
彼の名はIBM#11井田。IBMのキックを任せられている彼の登場は、
オンワード側からすれば安堵の、IBM側からすれば不安の感情が
にじみ出ていた。
それもそのはず、彼はこの日2QにFGを決めているものの、3度あった
TFPを全て外している。残り7秒でオンワードが勝っているものの、
その3点を決めていればこの不安と安堵が入り混じるスタジアムには
ならず、34-36でIBMの凱歌を聞く事になっていたからだ。

オンワード有利と見られていたこの試合はIBMのTDで幕を開ける。
第1Qは0-0で終わったが、どちらも攻撃にリズムをつかめず
大きなゲインも少ないままで終わったが、第2Qに入りIBMは
#89天谷へのパスや、#15QB岡村のスクランブルもあって前進。
最後は#39磯谷のショートランで先制し0-6(TFP失敗)。
だが、オンワードも目を覚ましたのかすぐさま反撃開始。
#10QB小島のキープで前進して、巧みにパスを織り交ぜ、
そして最後は小島のランでTDを決め、TFPを決めて7-6と逆転。
IBMのTDから約3分しか経過していなかった。

だが、この第2Qは両チーム怒涛のTDラッシュを見せて点を取り合う。
このオンワードのTDからまたしても約3分後。岡村から放たれる
天谷へのボールをオンワード守備陣は止められず、大きなゲインを
許して最後はまたしても#39RB磯谷のTDランで7-12(TFP失敗)と逆転。

その直後のキックオフをオンワードはそのシリーズでTDを決めて
再逆転で14-12。IBMは前半終了間際にタイムアウトを使い切っていた
為に岡村がスパイクして時間を止め、#11井田がFGを決めてIBMが
再逆転の14-15で前半を終える。
ここまでも波乱の展開といえばそうだ。万年3位のIBMが
昨年ライスボウル優勝のオンワード相手に健闘している。
特にこの日のIBMの三人の矢ならぬ「谷」はわかっていても
止められない。磯谷、円谷、天谷の三人は誰もが代表レベルで、
#44WR天谷は実際ワールドカップ07の日本代表に選出されている。

第3Qは岡村のパスが冴え、この3人に#81安田を加えた4人が
ターゲットになりオンワード守備陣に的を絞らせない。
オンワードも黙って指をくわえて見ている訳ではない。
日本代表QB#13冨澤と#10小島の2人を交互に起用してパスと
ランの攻撃に幅を持たせて敵陣侵入。今年ブレイクしている
#34堤がTDを挙げれば、日本代表#25前田もTDを挙げて白熱の
シーソーゲームは27-27のまま最終第4Qに。

第3Qの終盤から敵陣深く攻め込んでいたIBMは開始5秒で、
QB岡村がスクランブルで駆け抜けてTDを決める。
ここでIBMベンチはとうとう1度もTFPを決められない#11井田に
代わって#22中山を送るが、彼のキックはポストに当たり
これも決められない。
IBMが6点しか挙げられなかった事から、オンワードはじっくり
時間を消費しながらのフットボール開始。7点を確実に取れれば
ほぼ勝利は間違いないからだ。
IBMのTDから約4分近くをかけ敵陣まで入り込み、最後は絶好調の
堤が再びTDを挙げTFPも決めて34-33と再逆転。
この後はお互いパントを蹴りあいIBMに残された時間は2分33秒。
タイムアウトを使い果たしているIBMは、パスを中心に攻めるが
4thダウンに追い込まれたが、ここで#81安田がパスキャッチし
望みをつなぐと、最後はTDへのパスを防がれて4thダウンで
この日1本もTFPを決めておらず、決めたFGを合わせても1/4という
キッカーとしては目も当てられない成績の#11井田が登場。

オンワードのファンからは、「下手だから助かった」という声が
漏れ、IBMのファンからは「信じているが今日は。。。」という
祈りにも似た声が聞こえてきそうだった。

チームとファンの後押しを受けて井田が蹴ったボールは低い弾道を
描きつつも、ゴールポストに向かって飛んでいく。今度は文句無く
ゴールポストの間を抜けて残り3秒で34-36とIBMが再逆転した。
オンワードに残された時間が3秒ではあまりにも時間が無かった。

自作自演とも言えなくもないこの井田のキック。劇的だったが
これで2/5では笑えない。だが、失敗は成功の素と言われる様に
最後は良く決めたと思う。「努力の矢、成功の的を外さす」とは
横浜FC内田智也の座右の銘であるが、今回の井田に送りたい
言葉でもあった。



