2008年01月24日

「V」 平本一樹

彼が横浜を離れるリリースが出たが、誰も驚かなかったに違いない。
「自分には緑の血が流れている」と言ったとか言っていないとか。
そういう選手が、断腸の思いでヴェルディを一時的に離れ、
武者修行の為に横浜に来たのを知っていたからだ。正直、横浜の
Playerというより、横浜へのVisitorという雰囲気があった。
でも、横浜のサポーターはそれでも彼を受け入れた。
チームの状況がその位逼迫していたからだ。



4-1-4-1で臨んだシーズンだったが、構想にあった久保は故障を抱えて
5月に戦線離脱をしてしまう。また、彼とはタイプが異なる選手は
難波やシウバらがいたが、高木監督の求める「1」のオプションで
しかなく、核になるべき選手が必要だった。

緑の血を持つ者が横浜にやってくる。私はあるシーンを思い浮かべて
いた。「V」というテレビドラマがあったのをご存知だろうか。
地球に人の姿をした宇宙人がやってきて、地球人を食料にしようとする
1984年に大ヒットしたテレビドラマである。このドラマで、初めて
宇宙人が地球にやってきた時、アメリカの上空に大きな円盤が浮かび、
人々は皆この先どうなるのか不安と好奇の思いで眺めていたシーン。
緑の高いプライドを持った選手が、横浜の守備的な戦術に馴染むのか、
皆歓迎はしたが彼が登場するまでは、複雑な気持ちだった。

しかし、その不安を彼はプレーで吹き飛ばす。合流したばかりで
全くチームにフィットしていない中で途中出場した大宮戦だったが、
後半からその最大の武器であるドリブルで単騎敵陣で勝負を仕掛けた。
孤立無援だったが、可能性を感じた。



翌週の三ツ沢では得点にこそ絡まなかったが、前線から守備も頑張り
勝利に貢献。その次のガンバ戦こそ敗れはしたが、PKを決めて
FWとして一息入った形だった。
そして、磐田戦。開始早々に日本代表GK・川口の頭を抜く技ありの
ループシュートを決めて、剛ばかりではない器用な一面も見せた。
久保の代役どころか、新エースが生まれると誰もが感じ始めていた。
ところが、この試合で逆転負けを喫してしまった影響が彼にも波及
したのだろうか、そこから全く歯車がかみ合わなくなった。
新潟戦、柏戦、千葉戦と大きな見せ場もなく敗戦。

長期間の合宿から明けて戦った横浜ダービーは散々なものだった。
菅野のミスによる失点から始まり計8失点。熱狂的な横浜FCサポでも
試合の途中で家路に付きたくなる試合だった。
だからこそ、この試合相手のミスから1点返した平本の心中を
察したくなる。きっと彼はきっとこう思っていたに違いない。

「こんなはずじゃない。」




彼はこの2007シーズン、サッカー人生で一番大きな決断をした。
東京Vの下部組織である読売日本SCジュニアに所属して以来、
ずっとヴェルディ一筋。その選手がレンタルとは言え移籍した。

2007シーズン序盤から、J2に残留した東京ヴェルディではフッキと
いう強力なFWの出現ににより出場機会は激減し、しかもシーズン
初スタメンの試合でいきなり退場する始末で、ラモス監督の信頼を
勝ち取る事ができずにいた。

そんな平本に舞い込んだ一通のオファー。それは元東京Vの選手で
あった高木監督からだった。2006シーズンで対戦した時も小村ら
DF陣を一人で切り裂き、失点して敗れた記憶を残していた。前を
向いて戦える個人能力の高さを評価して、声をかけた。



東京V一筋の選手が最下位の横浜FCのオファーにおいそれと応える
のか、移籍の成立を疑問視する声は両サポーター間にもあった。
「05年自身の手で降格させたヴェルディの再昇格はどうするのか」
「東京V一筋の選手が出るのか」
「横浜FCは最下位。もっといいオファーならば」

それらの声を全て振り払って平本は移籍を決断。プロサッカー
選手として、出場して結果を出して成長する。そのひたすらに
真っ直ぐな思いを貫いた。横浜FCを残留させて2005年に犯した
自分の過去の苦い思い出をチームこそ違えど払拭し、大きな経験に
して東京Vに復帰する。



そんな強い思いが徒労に空回りという徒労に変わろうとしていた。
高木監督解任。自身が負ったケガ、監督交代。
ヴェルディのエースとしてのプライド、点取り屋のFWとしての
プライド、プロとしてのプライド、いろんなものが音を立てて
崩れていった。
ピンと張り詰めていた強い気持ちが切れると中々元には戻らない。

ケガもあり、ジュリオレアル監督の構想から外れ、復帰した頃には
横浜FCは降格決定。その瞬間、サポーターは誰もが彼との別れを
シーズンが終わってもいないのに感じた。悲しくはない。それが
前提だったのだから。そう、それが契約だったのだから。

テレビドラマの「V」には2つの意味がある。一つは来訪者を意味
する「Visitor」。もう一つは、勝利の「Victory」である。
惜しむらくは、彼が点を決めた試合に一度でも勝利を味わせて
やりたかった。そしたら何かが違っていたかも知れないが、もう
タラレバ論は意味がない。今は「Verdy」での活躍を見守りたい。
posted by おかき at 00:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 横浜FC選手列伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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