
この写真は日本代表・坪内とマレーシア代表選手が健闘を称え合って
いるシーンである。だが、このほんの数分前まではこのシーンが
試合の後に待っている事は誰も想像できなかったに違いない。
試合終了1分47秒前のゴールは、どちらが決勝に進めるのかを決めた、
両チームの運命を分けたゴールだったからである。

そもそもこの試合は日本が勝ち点9マレーシアが勝ち点7で迎え、
勝者が翌日の決勝に進出する事ができるというサバイバルマッチ。
勝利で勝ち点3、引き分けで勝ち点1なので、日本は引き分けでも
決勝に進むことは計算上できたが、日本の世界ランク11位に対し
マレーシアは14位と差がなく、勝ちきる位の気持ちでなければ
いつひっくり返ってもおかしくはない。その位僅差の試合になる
事は、事前から誰の目にも予想がついた。
ホッケー協会はこの日の為に岐阜県中の高校・中学ホッケー部を
招待し、また10日まで中国と親善試合を行っていた女子代表の
選手も何人か駆けつけていた。マレーシアの応援席を除けば、
ほぼ満員に膨れあがった岐阜グリーンスタジアム。

圧倒的に日本の応援の中で始まったゲームは、その予想とは逆の
方向に流れていく。先制したのはマレーシア。このゲーム最初の
PCを確実に得点に結びつけた。開始から相手の様子を見る戦いを
続けていたが、この得点でゲームが動き出した。今大会失点してから
動きがよくなる日本代表はこの日もその例に漏れず、失点してから
サイドの突破を繰り返しマレーシアを押し込んでいく。
そして、21分右サイドの突破からフリーヒットを獲得。坪内のヒットを
中に飛び込んだ伊藤亮が上手く合わせて同点。

追いついた勢いで一気に畳み掛けたい日本だったが、直後の26分に
#5小澤がイエローカードにより5分以上の退場を命ぜられ一人少なく
なった間にPSから失点を許し、再び突き放される。

中盤でゲームをコントロールしていた小澤を失っている間に
逆転された日本。その小澤が戻ってきた直後にも右サイドを
突破されて、さらに失点を重ね1-3と厳しい点差になった。
だが、ホームで簡単に負けられない日本は、前半終了36秒前に
#16小野がFGを決めて1点差に追いすがり、勢いを残したまま
前半を終える。
後半、マレーシアの狙いは一つ「守る事」。後半になると
マレーシアは守備に比重を置くようになった。
その関係で日本はボールを持てる様になり、多くの時間を
マレーシア陣内で攻撃に消費したが、一つの目標に狙いを定め
集中するマレーシア守備陣をこじ開けられない。
少なくとも日本は引き分けにしなければ、決勝に進めない。

どんどん時間がなくなっていく。ボールは持てる。反則を
もらうので、フリーヒットの回数も多いが、最後の部分で
ボールを持って前を向かせてもらえない。
マレーシアの激しい守備の前に、焦りの色がにじみ始める。

残り時間も5分を切ると、日本は連続でPCを獲得できる様に
なった。マレーシアも守備ばかりとは言え体力の消耗は激しい。
残り数分。完全な消耗戦。この先の一点が勝敗を分ける。
そして、残り2分を切って得たPC。坪内が入れたボールを
ストッパーの小澤がミスをして悲鳴にも似た歓声があったのも
つかの間、無理な体制から放ったシュートはGKが体勢を崩して
弾いた為に、こぼれ玉に両チームの選手が激しく交錯。
しかし、笛は鳴ることなく、最後は#8片山が押し込んで日本が
終了1分47秒前に劇的なゴールを挙げた。
しかし、これにはマレーシアの選手も黙っていなかった。
交錯したのはデンジャラスプレーであろうという抗議や、最後の
片山のゴールもスティック以外の部分であれば無効であり、
得点ではないという抗議が考えられた。両チームの選手から離れ、
審判2人が協議した結果、日本のゴールが認められた。

これに納得がいかないのは、この日王族も来ているマレーシアの
ベンチ。監督・コーチまで抗議に飛び出し、マレーシアの選手も
引き上げさせ、観客は一時試合放棄の覚悟までしなければ
ならなかった。

最終的には、マレーシアの選手はピッチに戻りゲームを再開した。
この時、観客は不要な抗議や試合放棄への素振りに対しての
ブーイングではなく拍手で彼らを迎えた。例え辛い判定があったと
しても最後までゲームを行うという英断、スポーツマンシップを
称えたものだった。
同点に追いついた日本は逃げ切りを図る。とにかく遠くに
ボールを飛ばし時間を稼ぐ。サッカーやラグビー等と違い、
ロスタイムがないホッケーは遠くに飛ばし拾いに行かせるのが
一番の時間稼ぎになる。
最後、#3吉田のスクープを拾いに行く間に試合終了。
日本は最終日の決勝に進出。

この試合は勝敗云々よりも、同点に追いついた日本代表と、
疑惑の判定がありながらも最後までゲームを投げなかった
マレーシアの選手を称えたい。スポーツは勝敗だけを見るのでは
なく、こうした素晴らしいスポーツマンシップを見る為にもある。
白熱した戦いはホッケーの迫力や醍醐味を存分に表現したと思う。
日本はこれで、決勝に進出。10日に予選で戦ったドイツの
ヨチェン監督は感想を求められ「(出した力は)20%かな。
ジョークだよ。100%だと思う」とジョークとは言え失礼な
コメントを残した。
日本とドイツの実力差を考えれば勝利は容易ではない。
だが、こういう失礼なチームには天罰が落ちる事を期待したい。
それがたった1点の得点であっても。



