僕は窓の外ばかり見ていた。
バスの中はやり場のない怒りを押えつつも、ホテルが用意されているという、
いくばくかの安堵感が入り混じった複雑な沈黙が広がっていた。
(後ろのフランス語をペラペラ話す故郷トロントへ帰るであろう二人組を除いては。)
僕もそんな空気を感じてか「どうにかなんないかな」と、
サインを誰も見るはずのない景色に送っていたのかも知れない。
大体悪い予感は昼位からあった。成田空港のHPには、
その日離発着する航空機の状態が出るのだが、搭乗予定の
「AC2便」は備考に「到着時刻不明」とあった。
飛行機の現地への到着が遅れる事はよくあるので、そんなもんだろと
思って来ると「成田への到着時刻不明」と思い知らされた訳だ。
ふと、乗客の一人が「東急よりヒルトンがいい」とほざく。
勝手に言ってろと思う。海外じゃ"そこまで責任ない"と、
遅延の為に必ずしもホテル用意をしてくれるとは限らないんだ。
それを考えたら幾分もマシな話だ。それに乗じてどこがいい、
ここがいいと騒ぎ出すオッサン達が車内の空気を悪くする。
そういう喧騒から早く逃れたかったのだろう、バックパック1つと
いう事も手伝って、バスから最初に降りてルームキーと夕食券の配布される
場所の先頭に無表情に並ぶ。ホテルの従業員は丁寧に対応してくれる。
彼らに全く罪はない。ただ、あまりにその場から早くいなくなりたかった。
長い廊下を行った先に自分の部屋はあった。ルームキー
バックパックと上着を脱ぎ捨てて、荷物置き場に放り投げて
椅子に座って時間が経つのを無心で待つ。
気が重いのは3点。まず"飛行機の遅延"だ。
このお陰でトロントに11/10宿泊予定のホテルをキャンセルしないといけない。
正確に言えば、しなくてもいいけど、保険とかの手続きが面倒だ。
それと同時に"スケジュールが大幅に狂った"。
11/10昼トロント到着で1泊し、11/11夜トバゴに向かう予定が、
11/11早朝に着いて、その夜出発になった。
日本とトロントは時差が-13時間でフライト時間は12時間位。
11日は朝9時日本発で、朝7時トロント着、24時トロント発。
厳しくなることが予想される。治安の悪いと言われる
トリニダード・トバゴに寝不足で入るのは危険だ。
そして感じたのは"マイノリティ"。空港関係の人も
「約5年この職場にいますが、トリニダード・トバゴに向かわれた
お客様は初めて」なんて言われた。最初、旅券を見て
「このポートオブスペインの国はどこですか?」と聞かれた時に
「知らないんだろうか、それともチェックなのか」と思ったら前者だった。
国際携帯を借りる時はもっとむごい。使えるかどうかだけを
聞くのに付箋に国名を自分で記載してんだから。
カタカナで「トリニダード・トバゴ」って。しかも販売員がパソコンで
それを見つけるとさも何か手柄を挙げたかの様な騒ぎ。
「おお!あった!ありましたよ!」色めき立つカウンターw
シルビオが不憫になった瞬間だ。俺は拳を強く握った。
そんな事をふと思い出しながら食べ放題の夕食を平らげる。
洋食選んで正解!ステーキを箸で食いちぎったし。
その方々はキューバに向かわれるらしい。しかも新婚旅行で。
「珍しいですね」等と言おうものなら、次は自分の番。
「それはどこですか?」というお決まりのフレーズを聞かなくてはならない。
少し夜更かしをした。2時過ぎに眠る。飛行機の中で寝る為だ。夜ぐっすり寝るともうすぐ来る12時間に全く眠れなくなる。7時前に起床。今度こそ出発の朝だ。


